「いつ結婚するの?」「そろそろ籍を入れたら?」
日本では、恋人関係が長く続くと、自然とこうした言葉が周囲から聞こえてくるものです。
結婚は“次のステップ”であり、“関係のゴール”のように捉えられがち。入籍によって、ようやく正式な関係になれる……そんな感覚を持っている人も少なくありません。
けれど、ドイツでは少し事情が異なります。
「結婚=ゴール」という考え方は、必ずしも主流ではありません。 むしろ、「籍を入れるかどうかよりも、どんな関係を築いているか」が大事にされているのです。
結婚していなくても「家族」になれる
ドイツでは、籍を入れずに長年一緒に暮らすカップルが珍しくありません。
子どもを育てている夫婦もいれば、共同で家を買い、人生を共にしているパートナーもいます。
法律上の結婚をしていなくても、社会的には「パートナー」として十分に認められているのです。
これは、ドイツの“事実婚”文化(Lebensgemeinschaft)とも関係しています。
形式より実態。つまり、「紙の上の契約」よりも、「実際に一緒に暮らし、支え合っているかどうか」が評価されるのです。
たとえば、税金の優遇や遺産相続といった制度上の違いはあっても、日常生活において「結婚していないから不完全な関係」と見なされることはありません。
なぜ「結婚」にこだわらないの?
それにはいくつかの背景があります。
まず、ドイツでは個人主義が強く根づいています。
「結婚しても、自分の人生は自分のもの」という意識が強く、入籍によってすべてが変わるとは考えません。
また、かつての歴史的背景として、再婚や事実婚を選ぶ家庭が増えたことで、「結婚しなくても幸せになれる」というモデルが社会に広がったという側面もあります。
さらにもうひとつ。
ドイツでは「結婚=安定」ではなく、「安定しているからこそ、必要なら結婚する」という順番の意識があるのです。
つまり、結婚は「スタートライン」ではなく、「必要に応じて選ぶ選択肢のひとつ」。
この価値観の違いは、日本人にとって新鮮に映るかもしれません。
婚姻制度だけじゃないパートナーシップ
ドイツには「eingetragene Lebenspartnerschaft(登録された生活共同体)」という制度もありました(※現在は同性婚制度に統合済み)。
これは、法律婚とは別に、国が承認する“契約的パートナー関係”を結ぶ制度。
もちろん、現在では男女のカップルも含めて、結婚と同様の権利を得られる選択肢が整っています。
重要なのは、法的な枠組みよりも「どのような形で信頼を築くか」。
たとえ書類がなくても、住居を共有し、生活を分担し、将来を語り合う——。
そこにあるのは、まぎれもなく「家族のかたち」です。
日本との違いに戸惑う場面も
もし日本人がドイツ人と恋愛をしているとしたら、「いつ結婚するの?」という問いに、ドイツ人が戸惑うこともあります。
「なぜ籍を入れなければならないの?」 「いま幸せなのに、変える必要があるの?」
そんなふうに聞き返されると、日本的な感覚では拍子抜けするかもしれません。
でも、それは決して「責任から逃げている」のではありません。 むしろ逆です。
ドイツでは「関係性がすでにしっかり築かれているなら、それだけで充分」と考える人が多いのです。
じゃあ、結婚する意味って?
とはいえ、ドイツ人がまったく結婚をしないわけではありません。
結婚を選ぶ理由には、こんなものがあります:
- 子どもが生まれたときの法的手続きをスムーズにしたい
- 税制上のメリットを得たい
- 親族との関係性を整理したい
このように、結婚は“愛情の証”というより、“ライフプランの一部”として位置づけられています。
ですから、結婚式も「小さな市庁舎での式+家族との食事会」といったシンプルなものが主流です。
大げさな演出より、現実的な準備と誠実な話し合い。それが、ドイツ式結婚の特徴なのです。
結びに:籍よりも、大切なこと
結婚はもちろん素晴らしい制度です。 でも、ドイツ人の考え方に触れると、「籍を入れることが愛のゴールではない」という新しい視点が見えてきます。
大切なのは、紙の上の証明ではなく、
- 日々どんな会話をしているか
- どんな未来を描いているか
- どれだけお互いを尊重しているか
そうした“目に見えない信頼”のほうが、よほど確かな絆になっているのかもしれません。
形式にとらわれず、本質を見つめる愛のかたち。
それが、ドイツ人が“籍”よりも大切にしているものなのです。
あなたにとって、愛を実感する瞬間はどんなときですか?
籍か、それとも……日々のやさしさでしょうか。